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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)99号 判決

東京都大田区中馬込一丁目3番6号

原告

株式会社リコー

代表者代表取締役

桜井正光

訴訟代理人弁護士

稲元富保

同弁理士

樺山享

本多章悟

加藤和彦

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

小牧修

小澤菊雄

吉村宅衛

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成6年審判第5449事件について平成9年3月11日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年10月23日に発明の名称を「現像装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和60年特許願第236979号)をしたが、平成6年1月28日に拒絶査定を受けたので、同年3月31日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成6年審判第5449号事件として審理された結果、平成7年5月17日に出願公告(平成7年特許出願公告第46246号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成9年3月11日、特許異議の申立ては理由がある旨の決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年4月7日にその謄本の送達を受けた。

2  本願発明の特許請求の範囲(別紙図面A参照)

静電潜像が表面に形成される潜像担持体に対向して配置され、その対向部で該潜像担持体にトナーを供給するローラであって周面が連続している現像ローラと、

上記現像ローラの上記周面に当接して配置され、上記現像ローラとの当接部においてその周面が相対的に移動する導電性のトナー補給ローラと、

上記現像ローラと上記トナー補給ローラとの間に電圧を印加するための電源であって、上記現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合はにはB<VRに、上記トナーが負帯電性である場合にはVB>VRにそれぞれ設定する電源と、

上記現像ローラの回転方向において上記トナー補給ローラよりも下流側であって、上記対向部と上記トナー補給ローラとの間に、上記現像ローラの上記周面に当接した状態で配置され、上記VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから上記現像ローラに過剰に供給されたトナーを現像ローラ上で薄層化するとともに、薄層化されたトナーの帯電を均一化する摩擦帯電手段とを具備する現像装置

3  審決の理由

別紙審決書「理由」写しのとおり

4  審決の取消事由

各引用例に審決認定の技術的事項が記載されていること、本願発明と引用例1記載の発明が審決認定の一致点及び相違点を有することは認める。しかしながら、審決は、相違点の判断を誤った結果、本願発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

すなわち、審決は、引用例1に電位勾配を大きくすることによってトナーの搬送量を増大できる旨の記載があることを論拠として、引用例1記載の現像装置の現像ローラに過剰なトナーを付着させたうえ、引用例2記載の薄層化規制部材によってトナーを薄層化することは当業者が容易に想到できた旨判断している。

しかしながら、引用例1記載の発明は、トナー搬送ローラと現像ローラの各印加電圧を割御することによって、現像ローラに付着するトナーを常に最適な量にすることを企図する技術であるから、現像ローラに過剰なトナーを付着させることは全く予定されていない。したがって、このような引用例1記載の発明に引用例2記載の薄層化規制部材を適用する動機付けは存在しえないから、審決の上記判断は誤りである。

この点について、被告は、引用例1の2頁左下欄10行ないし15行の記載を援用して、この記載から現像濃度が適切な場合であっても電位勾配を更に大きくして現像ローラへのトナーの付着を増大し現像濃度を高くするという技術的思想を読み取ることができる旨主張するが、被告が援用する引用例1の上記記載は「現像濃度が低く、所要の画像濃度を得られなかった場合」の処理として記載されているのであるから、被告の上記主張は失当である。

また、被告は、引用例1に「画像濃度が高過ぎる場合」の処理が記載されていることを指摘するが、これは不具合の場合の対策として記載されているのであるから、引用例1のこの記載を、現像ローラに過剰なトナーを意図的に付着させる技術と結び付けるのは不当である。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

原告は、引用例1記載の発明は現像ローラに付着するトナーを常に最適な量にすることを企図する技術であって、現像ローラに過剰なトナーを付着させることは全く予定されていないから、引用例1記載の発明に引用例2記載の薄層化規制部材を適用する動機付けは存在しえない旨主張する。

しかしながら、当業者ならば、審決が援用している引用例1の「第1の搬送ローラ(15)及び第2の搬送ローラ(16)間の電位勾配、あるいは第2の搬送ローラ(16)及び現像ローラ(13)間の電位勾配を更に大きくする事により、トナー供給部(24)から現像ローラ迄、即ち矢印v方向のトナー(26)の搬送量を増大し、現像濃度を高くする。」(2頁左下欄10行ないし15行)との記載から、現像濃度が適切な場合であっても、電位勾配を更に大きくして現像ローラへのトナーの付着を増大し現像濃度を高くするという技術的思想を読み取ることができる。また、引用例1には「画像濃度が高過ぎる場合」(2頁左下欄15行)の処理が記載されているが、これは現像ローラに過剰のトナーが付着して生ずるのであるから、引用例1記載の発明は現像ローラに過剰なトナーを付着させることを全く予定していないという原告の主張は理由がないというべきである。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第2号証(公告公報)及び第3号証(手続補正書)によ「れば、本願発明の概要は次のとおりである(別紙図面A参照)。

1  技術的課題(目的)

本願発明は、一成分現像剤使用の現像装置に関するものである(公報2欄9行ないし11行)。

従来のこの種の現像装置には、現像ローラ表面の残留トナーの掻き落としを十分に行うことができず、残像が発生するなどの問題点があった(同3欄2行ないし10行)。

本願発明の目的は、従来技術の上記のような問題点を解決した現像装置を提供することである(同3欄12行ないし17行)。

2  構成

上記の目的を達成するため、本願発明はその特許請求の範囲記載の構成を採用したものであって(手続補正書3枚目2行ないし20行)、要するに、現像ローラに過剰なトナーを付着させたうえで、トナーの帯電量と付着量を制御することによって安定した画像を得ることを特徴とするものである(公報3欄13行ないし16行)。

3  作用効果

本願発明によれば、画像濃度の向上、残像発生の抑制、地肌汚れの改良を図ることが可能である(公報6欄22行ないし25行)。

第3  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

原告は、引用例1記載の発明は現像ローラに過剰なトナーを付着させることを全く予定していないから、引用例1記載の発明に引用例2記載の薄層化規制部材を適用する動機付けは存在しえない旨主張する。

検討すると、甲第4号証によれば、引用例1記載の発明は、摩擦帯電を利用する従来の現像装置はトナーの搬送量の制御が困難であることに鑑みて創案されたものであって(1頁右下欄1行ないし13行)、その特許請求の範囲は審決認定のとおり(ただし、「調製」とあるのを「調整」に改める。)であると認められる(別紙図面B参照)。すなわち、引用例1記載の発明は、現像ローラの印加電圧とトナー搬送ローラの印加電圧を調整することによって現像ローラに付着するトナーの量を電気的に制御する構成のものであるから、現像ローラに付着するトナーの量を、現像濃度が適切な範囲を越えて過剰な範囲に設定することも技術的に可能であることは当然である。

一方、「現像ローラに対して現像に必要な量を越える過剰のトナーを付着させ、この過剰のトナーを潜像担持体の潜像を現像するに必要な量の薄層に形成すると同時にトナーを摩擦帯電する薄層化規制部材」が引用例2等の記載によって本出願前に周知であったことは原告も争わないのであるから(別紙図面C参照)、引用例1記載の現像装置に引用例2記載の薄層化規制部材を適用して、作用効果が更に優れた現像装置を得ることは、当業者ならば容易に想到できたことといわざるをえない。引用例2記載の薄層化規制部材が広く現像装置一般に適用できることは技術的に明らかであるから、引用例2の実施例として記載されている現像装置のトナー搬送が引用例1記載の発明のように電気的に制御されるものでないことは、引用例2記載の薄層化規制部材を引用例1記載の発明に適用することの妨げにばなりえない。

以上のとおりであるから、本願発明の進歩性を否定した審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような違法はない。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年9月29日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面A

〈省略〉

2……沿像担持体、4……現像装置、10……現像ローラ、12……トナー補給ローラ、14……摩擦帯電手段、18……電源.

別紙図面B

〈省略〉

10…現像装置、 11…筐体、

12…感光体ドラム、 13…現像ローラ、

15…第1の搬送ローラ、 16…第2の搬送ローラ、

17…発泡ウレタンローラ、18…電源、

20…電圧分配器、 21、22、23…ダイアル、

26…トナー.

別紙図面C

〈省略〉

4…感光体(像担持体)、24…現像用フアーブラシローラ(回転体)、28…毛体、31…トナー回収用メツシユ(トナー回収手段)。

理由

(手続の経緯・本願発明の要旨)

本願は、昭和60年10月23日に出願されたものであって、その発明の要旨は、出願公告後の平成8年2月20日付け手続補正書により補正された明細書及び出願公告時の図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「静電潜像が表面に形成される潜像担持体に対向して配置され、その対何部で該潜像担持体にトナーを供給するローラであって周面が連続している現像ローラと、

上記現像ローラの上記周面に当接して配置され、上記現像ローラとの当接部においてその周面が相対的に移動する導電性のトナー補給ローラと、

上記現像ローラと上記トナー補給ローラとの間に電圧を印加するための電源であって、上記現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに、上記トナーが負帯電性である場合にはVB>VRにそれぞれ設定する電源と、

上記現像ローラの回転方向において上記トナー補給ローラよりも下流側であって、上記対向部と上記トナー補給ローラとの間に、上記現像ローラの上記周面に当接した状態で配置され、上記VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから上記現像ローラに過剰に供給されたトナーを現像ローラ上で薄層化するとともに、薄層化されたトナーの帯電を均一化する摩擦帯電手段とを具備する現像装置。」

(引用例)

これに対して、当審における特許異議申立人(竹原繁治)の提示した甲第2号証である下記引用例1および甲第1号証である引用例2には、次の事項が記載されている。

引用例1:特開昭56-110963号公報(昭和56年9月2日出願公開)

引用例2:特開昭57-185459号公報(昭和57年11月15日出願公開)

引用例1の記載事項;

「潜像を有するベースに対向して設けられる現像ローラと、この現像ローラにトナーを搬送するため前記現像ローラに転接する導電性ファーブラシからなる1つ以上のトナー搬送ローラと、この1つ以上のトナー搬送ローラ及び前記現像ローラの各間に電位勾配が形成されるように電圧を印加する電源と、この電源による印加電圧を調製する調製装置とを有する事を特徴とする現像装置。」(第1頁左下欄特許請求の範囲)。

「この発明は複写機等においてキャリアレストナーにより、静電潜像・・・を現像する新規な現像装置に関する。」(第1頁左下欄第13行~第15行)。

「この発明は上記事情にもとづいてなされたもので、ファーブラシローラによるキャリアレストナーの搬送量を制御出来、必要なトナー濃度を得る事が出来鮮明な複写画像が得られる現像装置を提供する事を目的とする。」(第1頁右欄第13行~第17行)。

「以下この発明の一実施例を第1図及び第2図を参照しながら説明する。現像装置(10)の筐体(11)開口部(11a)は負極性の静電潜像・・・が形成される・・・感光ドラム(12)と対向している。又、筐体(11)内には、・・・感光体ドラム(12)と摺接する現像ローラ(13)、及びトナー搬送ローラを構成する第1の搬送ローラ(15)並びに、第1の搬送ローラ(15)と現像ローラ(13)とに連接する第2の搬送ローラ(16)が設けられている。そして、現像ローラ(13)及び第1の搬送ローラ(15)、並びに第2の搬送ローラ(16)は共に、アルミニウムからなる導電性シャフト(17a)に取着され、・・・導電性発泡ウレタンローラ(17)に、・・・レーヨン繊維(17b)が静電植毛されるファーブラシ状とされている。更に(18)は電源であり、・・・現像ローラ(13)及び第1の搬送ローラ(15)並びに第2の搬送ローラに電圧を印加している。そして電圧分配器(20)・により、通常第1の搬送ローラ(15)には約0[V]、第2の搬送ローラ(16)には約150[V]、現像ローラ(13)には約300[V]の電圧が印加されるようになっている。又、(24)は筐体の上方に設けられるトナー供給部であり、・・・正極性に摩擦帯電される非磁性キャリヤレスのトナー(26)を・・・供給している。」(第1頁右下欄第18行~第2頁右上欄第5行)。

「次に作用について述べる。・・・感光体ドラム(12)は・・・負極性の静電潜像・・・が形成された状態で現像装置(10)に達する。一方現像装置(10)の第1の搬送ローラ(15)及び、第2の搬送ローラ(16)並びに現像ローラ(13)は相互に摺接し摩擦を生じながら矢印u方向に回転されると共に、電源(18)により第1の搬送ローラ(15)には約0[V]、第2の搬送ローラ(16)には約150[V]、現像ローラ(13)には約300[V]の電圧が印加されている。そして第1の搬送ローラ(15)により、・・・第2の搬送ローラ(16)に達したトナー(26)は、摩擦帯電されつつ、電位の高い第2の搬送ローラ(16)に付着され、次いで現像ローラ(13)に達する。更に第2の搬送ローラ(16)及び現像ローラ(13)との摺接部においてもトナー(26)は摩擦帯電されつつより電位の高い現像ローラ(13)側に付着され、・・・このようにしてトナー(26)は、各搬送ローラ(15)[(5)は誤記。]、(16)及び現像ローラ(13)間の電位勾配により第2図矢印v方向に搬送される。・・・・・・・・・・

そして、第1の搬送ローラ(15)及び第2の搬送ローラ(16)間の電位勾配、あるいは第2の搬送ローラ(16)及び現像ローラ(13)間の電位勾配を更に大きくする事により、トナー供給部(24)から現像ローラ迄、即ち矢印V方向のトナー(26)の搬送量を増大し、現像濃度を高くする。」(第2頁右上欄第7行~左下欄第15行)。

「又、現像ロニラの形状も、複数のトナー搬送ローラにより搬送される間にトナーが充分摩擦帯電されていれば、ファーブラシ状で無く滑面状であっても良い。」(第2頁右下欄第19行~第3頁左上欄第2行)。

なお、第1図には、第2の搬送ローラと現像ローラはいずれも反時計方向に回転すること、接地側を+、電圧分配器側を-にした電源(18)が記載されている。

以上の記載からすると、引用例1には、

「負極性の静電潜像を有するベース(感光体ドラム)に対向して設けられる滑面状の現像ローラと、この現像ローラにトナーを搬送するため現像ローラに転接する導電性ファーブラシからなるトナー搬送ローラ(第2の搬送ローラ。現像ローラとは、その当接部で反対方向に移動している。)と、このトナー搬送ローラ及び現像ローラの各間に電位勾配が形成されるように電圧を印加する(例えば、第2の搬送ローラには約150[V]、現像ローラには約300[V]、第1図の電源(18)からして、正確には、それぞれ約-150[V]、約-300[V]を意味する、が印加される。)電源と、この電源による電位勾配により、正極性に摩擦帯電されたトナーをトナー搬送ローラから現像ローラに供給する現像装置。」

の発明が記載されているものと認める。

引用例2の記載事項;

「(1)像担持体の表面に形成された静電潜像にトナーを供給し、上記静電潜像を現像するものにおいて、上記像担持体の表面と摺擦する毛体を有し、回転自在に支持され上記トナーが過剰に供給される回転体と、この回転体と摺擦し、その毛体に過剰に供給されたトナーを掻き落すトナー回収手段とを具備したことを特徴とする現像装置。

(2)トナー回収手段はメッシュ部材であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の現像装置。」(第1頁左下欄特許請求の範囲)。

「トナー供給箱33内の非磁性トナー34はトナー供給用ローラ29によって現像用ファーブラシローラ24に過剰に供給される。」(第3頁右上欄第19行~左下欄第1行)。

「現像用ファーブラシローラ24に供給された過剰な未現像トナーはトナー回収メッシュ31によって掻き落され、さらにこのときトナーの帯電を促進する。そして、このようにしてファーブラシローラ24にば、1回の現像に十分な量のトナー層が形成され、」(第3頁左下欄第10行~第16行)。

(対比・判断)

本願発明と、引用例1に記載の発明とを対比すると、引用例1に記載の発明の「潜像を有するベース」、「滑面状の現像ローラ」、「導電性ファーブラシからなるトナー搬送ローラ」は、それぞれ本願発明の「潜像担持体」、「周面が連続している現像ローラ」、「導電性のトナー補給ローラに相当し、また、引用例1に記載の発明の、「トナー搬送ローラ及び現像ローラの各間に電位勾配が形成されるように電圧を印加する(例えば、第2の搬送ローラには約150[V]、現像ローラには約300[V]、第1図の電源(18)からして、正確には、それぞれ約-150[V]、約-300[V]を意味する、が印加される。)電源と、この電源による電位勾配により、正極性に摩擦帯電されたトナーを搬送ローラから現像ローラにトナーを供給する」は、本願発明の、「現像ローラの電圧を、現像ローラの電圧をVB、トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに設定する電源」および「VBとVRとの電位差により生じる電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラに供給されたトナー」に相当するから、両者は、「静電潜像が表面に形成される潜像担持体に対向して配置され、その対向部で該潜像担持体にトナーを供給するローラであって周面が連続している現像ローラと、

上記現像ローラの上記周面に当接して配置され、上記現像ローラとの当接部においてその周面が相対的に移動する導電性のトナー補給ローラと、

上記現像ローラと上記トナー補給ローラとの間に電圧を印加するための電源であって、上記現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに設定する電源と、

上記VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから上記現像ローラにトナーを供給する現像装置。」

である点で一致する。

(なお、トナー補給ローラと現像ローラ間に電位差を設け、電位差により生じる電気的な力により、トナーの補給を行うことは、特開昭57-111564号公報、特開昭58-98762号公報、特開昭59-86068号公報、米国特許第4083326号明細書等にも記載されているように、本出願前において良く知られている。)

しかしながら、本願発明は、「現像ローラの回転方向においてトナー補給ローラよりも下流側であって、対向部(現像ローラの潜像担持体との対向部、)とトナー補給ローラとの間に、現像ローラの周面に当接した状態で配置され、トナー補給ローラから現像ローラに過剰に供給されたトナーを現像ローラ上で薄層化するとともに、薄層化されたトナーの帯電を均一化する摩擦帯電手段」を有すうのに対し、引用例には、このような摩擦帯電手段についての記載がない点で相違する。

そこで、この相違点について検討する。

一成分現像剤を使用し、所定の極性を有するトナーを潜像担持体に供給するための現像ローラを備えた現像装置において、トナー補給ローラにより現像ローラに対して現像に必要な量を越える過剰のトナーを付着させ、この過剰のトナーを潜像担持体の潜像を現像するに必要な量の薄層に形成すると同時にトナーを摩擦帯電する薄層化規制部材を、現像ローラの回転方向においてドナー補給ローラよりも下流側であって、対向部(現像ローラの潜像担持体との対向部)とトナー補給ローラとの間に、現像ローラの周面に当接した状態で配置することは、引用例2にも記載されている(トナー回収メッシュ31が、薄層化規制部材に相当する。)ように本出願前において良く知られている(なお、この点は、特開昭59-13249号公報、特開昭58-223158号公報等にも示されている。)。

そして、引用例1には、電位勾配(電位差)を大きくすることにより、トナーの搬送量を増大することができる旨の記載があることを考慮すると、引用例1において、トナー補給ローラにより現豫ローラに対して現像に必要な量を越える過剰のトプーを付着させ、引用例2に記載されるような薄層規制部材を設けて現像ローラにトナーの薄層を形成するようにする程度のことは、当業者が容易に想到し得る。

また、本願発明の効果であるとする、トナー補給性の向上は、トナー補給ローラと現像ローラ間に電位差を設けることから、トナーの帯電量の向上による画像濃度の向上は、薄層化規制部材を具備することから予測されることである。さらに、残像の発生の抑制は、現像ローラに過剰のトナーを供給することから、地肌汚れの改良は、現像ローラに過剰のトナーを供給することと薄層化規制部材を具備することから得られるものであるから、引用例2等に記載される良く知られた現像装置においても得られていると認められる。

したがって、本願発明の効果は、格別なものでもない。

(むすび)

以上のように、本願発明は、引用例1~引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が、容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

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